DX・AI
2026.02.16

AI組織構築に欠かせない新職種とは?AIガバナンスとスキルマップの策定方法を徹底解説

AI組織構築に欠かせない新職種とは?AIガバナンスとスキルマップの策定方法を徹底解説

AI組織構築に欠かせない新職種とは?AIガバナンスとスキルマップの策定方法を徹底解説

生成AIや機械学習を本格的に活用しはじめた企業で、いま最も大きな課題になっているのが「AI組織をどうつくるか」です。
PoC(実証実験)は進むものの、その先の全社展開・業務定着に至らない企業も少なくありません。その背景には、「AIを推進する役割」と「AIを統制・ガバナンスする役割」が社内で明確に定義されていないことがあります。

本記事では、AI組織構築に欠かせない新職種の考え方から、AIガバナンス体制の設計、そして実務に落とし込むためのAIスキルマップの策定方法まで、順を追って解説します。これからAI人材戦略や組織設計を進めたい経営層・DX推進担当・情報システム部門の方に向けた実践的なガイドです。


目次

1. なぜ今「AI組織」と「新職種」が必要なのか

1-1. 個人の生成AI活用から「組織でのAI活用」へ

ChatGPTをはじめとする生成AIツールは、多くの企業で既に個人レベルでは活用が進んでいます。
しかし、以下のような課題から、組織としての本格活用には踏み切れていないケースが目立ちます。

  • 情報漏えい・著作権・倫理などのリスクが整理されていない
  • 社内ルールやガイドラインがなく、現場の判断に任されている
  • 「誰が責任を持つべきか」が不明確で、経営層が不安を感じている
  • ツール導入はしたものの、定着せず投資対効果が見えない

これらの課題を解決するには、「AIを使う人」だけでなく、「AIを設計・運用・統制・教育する人」を明確な役割として定義する必要があります。つまり、AI時代に対応した新しい職種・ロール(役割)を設計することが不可欠です。

1-2. AIガバナンスとビジネス価値創出を両立させる

AI活用には、以下の2つのバランスが求められます。

  • 攻め:AIを活用して生産性向上や新規事業創出を実現する
  • 守り:法令遵守・セキュリティ・倫理・品質を担保する

どちらか一方に偏っても、AI活用はうまく機能しません。「攻め」と「守り」を両立させる仕組みとして、AIガバナンスと、それを支える組織・新職種の設計が重要になります。


2. AI組織構築における主要な新職種・ロール

ここでは、AI組織を構築するうえで押さえておきたい代表的な新職種・ロールを整理します。必ずしもすべての職種を専任で置く必要はなく、企業規模やAI活用の成熟度に応じて兼務・外部委託を組み合わせる形でも構いません。

2-1. Chief AI Officer(CAIO)/AI統括責任者

役割:企業全体のAI戦略を統括し、経営戦略とAI活用を接続するポジションです。DX推進責任者(CDO)やCIOと連携しながら、AIの投資・優先順位・リスクマネジメントを意思決定します。

  • 経営戦略・事業戦略とAI戦略の整合性をとる
  • 全社AIロードマップの策定と進捗管理
  • AIガバナンス方針の決定と責任の明確化
  • 組織横断のAIプロジェクトの優先順位付け

2-2. AIガバナンス担当(AI Governance Officer / AI Risk Manager)

役割:AI活用に伴うリスクを洗い出し、ルールやプロセスに落とし込む専門家です。法務・セキュリティ・コンプライアンス部門と連携しつつ、現場で運用可能なガイドラインを整備します。

  • AI利用ポリシー・ガイドラインの策定と更新
  • 法規制(個人情報保護法、著作権法、EU AI規則など)のキャッチアップ
  • AIリスクアセスメントの設計・実施
  • AI倫理審査・利用申請のプロセス設計
  • 監査ログ・説明責任の仕組みづくり

2-3. AIプロダクトマネージャー / AIサービスオーナー

役割:AIを組み込んだサービスや社内ツールの企画・開発・運用をリードするポジションです。ビジネス側と技術側の橋渡しを担い、価値の最大化に責任を持ちます。

  • AI活用テーマの選定とビジネスケース策定
  • 要件定義(業務要件・ユーザー要件・AI要件)の整理
  • データサイエンティスト・エンジニアとの協働
  • KPI設計と効果検証
  • ユーザー部門からのフィードバック収集と改善

2-4. プロンプトエンジニア/AIアプリケーションデザイナー

役割:生成AIモデルに適切な指示(プロンプト)を与え、業務に使えるアウトプットを安定的に出す仕組みを設計・標準化する職種です。ツールの「高度なユーザー」から一歩進み、再現性のあるワークフローとして設計します。

  • 業務別・職種別のプロンプトテンプレート設計
  • システム連携を前提としたプロンプト設計(API活用など)
  • ガードレール(禁止事項・検証ステップ)を組み込んだ対話設計
  • 現場への展開とトレーニング

2-5. データスチュワード/データオーナー

役割:AIの前提となるデータの品質と利用ルールを管理するポジションです。データガバナンスとAIガバナンスは密接に関連しており、両者を一体として設計する必要があります。

  • 利用データの定義・メタデータ管理
  • データ品質基準とチェックプロセスの設計
  • アクセス権限・匿名化・マスキングルールの整理
  • AI学習用データセットの選定と管理

2-6. AIトレーナー/AIリテラシー推進担当

役割:社員全体のAIリテラシー向上と、現場でのAI活用定着を支援する役割です。単発の研修にとどまらず、継続的な学習の仕組みを設計します。

  • 職種別AIリテラシーカリキュラムの設計
  • ハンズオン研修・ワークショップの企画・実施
  • eラーニング・ナレッジベースの整備
  • 社内コミュニティ(AI活用事例共有会など)の運営

3. AIガバナンスの基本フレームワーク

新職種を定義するうえで、その土台となるAIガバナンスのフレームワークを理解しておくことが重要です。ここでは、実務で押さえるべきポイントを4つに整理します。

3-1. ポリシー(方針)レベル

まずは、企業としてのAI活用に関する基本的な考え方を明文化します。ここでは、細かいルールではなく「原則」を示すことが重要です。

  • AI活用の目的(生産性向上/価値創造/顧客体験向上など)
  • 守るべき価値観(安全性・公正性・透明性・プライバシー尊重など)
  • 人間の最終責任(Human in the Loop)の原則
  • 法令・規制の遵守に関する基本姿勢

3-2. スタンダード(標準)レベル

次に、具体的な運用ルールや基準を定めます。ここでは、職種別・用途別に「何をしてよいか/いけないか」を明確にします。

  • 利用可能なAIツールと禁止ツールのリスト
  • 社外サービスに入力してよい情報の範囲
  • 個人情報・機密情報の取り扱いルール
  • 著作権・コンテンツ利用に関する基準
  • AI生成物の利用時に必要な確認ステップ

3-3. プロセス(手続き)レベル

AIを導入・利用する際のワークフローを設計します。単なる「ガイドライン配布」に終わらせず、業務プロセスの中にガバナンスを組み込むことが重要です。

  • 新しいAIツールを導入する際の申請・審査プロセス
  • AIモデルの開発・評価・リリース手順
  • リスクが高いユースケースの事前審査・承認プロセス
  • インシデント発生時のエスカレーションルート

3-4. モニタリング&教育レベル

最後に、AI活用状況を継続的にモニタリングし、問題があれば改善につなげる仕組みを整えます。同時に、社員のAIリテラシー向上策もセットで設計します。

  • AI利用状況のログ取得と定期レビュー
  • リスク事例・ヒヤリハットの収集と共有
  • ガイドライン改定サイクル(例:半年ごと)
  • 定期的なAIリテラシー研修・eラーニング

4. 実務で使えるAIスキルマップの作り方

AI組織・新職種を定義しただけでは、実際に「誰にどんなスキルが必要か」が不明確なままです。そこで有効なのが、AIスキルマップの策定です。ここでは、現場で使える形に落とし込むためのステップを紹介します。

4-1. まずは「対象となる職種」を絞り込む

いきなり全社員分のスキルマップを作ろうとすると、ほぼ間違いなく頓挫します。まずは、AI活用インパクトが大きい、もしくはリスクが高い職種から優先的に対象を決めます。

  • バックオフィス(経理・人事・総務)
  • 営業・マーケティング
  • 開発・企画職
  • コールセンター・サポート
  • 情報システム・セキュリティ

部門ごとに代表者を集め、どのような業務にAIを使い得るか・既に使っているかを棚卸しするところから始めましょう。

4-2. 「共通スキル」と「職種別スキル」に分ける

AIスキルマップは、大きく以下の2階層に分けて整理するとわかりやすくなります。

  1. 共通AIリテラシー:全社員が共通して身につけるべき基礎スキル
  2. 職種別AI活用スキル:各職種で求められる具体的な使い方

共通AIリテラシーの例:

  • 生成AIの基本的な仕組み(大規模言語モデルとは何か)
  • AIの得意・不得意と、ハルシネーションの概念
  • プロンプト設計の基本(目的・前提・制約・形式の明示)
  • 情報漏えいリスクと入力禁止情報の理解
  • AI生成物の確認・検証の重要性

職種別AI活用スキルの例:

  • 営業:提案書ドラフト作成、顧客ヒアリング内容の要約、メール文面作成
  • 人事:求人票作成、面接質問案の生成、規程案のドラフト作成
  • コールセンター:応対履歴の要約、FAQ案の作成、マニュアル更新支援

4-3. スキルレベルを3〜4段階で定義する

スキルマップには、各スキル項目ごとに習熟度レベルを設定します。おすすめは、シンプルな3〜4段階です。

  • レベル1:AIツールを指示された範囲で利用できる
  • レベル2:自分の業務で主体的にAIを活用し、効果を出せる
  • レベル3:チームメンバーにAI活用方法を教えられる
  • (任意)レベル4:全社的なAI活用施策を設計・リードできる

各レベルで「具体的にどのような行動ができている状態か」を明文化することで、教育施策や評価制度にもつなげやすくなります。

4-4. スキルマップのサンプル構成

実際のスキルマップは、次のような表形式で整理するとわかりやすくなります。

カテゴリ スキル項目 レベル1 レベル2 レベル3
共通 生成AIの基本理解 用語を聞いたことがある 仕組みと限界を説明できる 自部門向けに説明会を実施できる
共通 プロンプト設計 テンプレートに沿って入力できる 目的に応じてプロンプトを改善できる チームのプロンプト標準を設計できる
営業 提案書作成支援 AIでたたき台を作れる 顧客ごとにカスタマイズできる 部門全体のテンプレートを最適化できる

このようなスキルマップをベースに、現状レベルと目標レベルのギャップを可視化し、研修計画や自己学習の指針として活用します。


5. AIガバナンスとスキルマップを連動させるポイント

AIガバナンスとスキルマップは、別々に設計するのではなく、一体として連動させることで効果を発揮します。特に、次の3点を意識すると良いでしょう。

5-1. リスクの高い業務ほどスキル要件を明確にする

個人情報や機密情報を扱う業務、意思決定への影響が大きい業務ほど、高いAIリテラシーが求められます。例えば、人事評価・採用・融資判断・医療行為などです。

  • どのレベル以上であれば、どの範囲までAIの判断に依拠してよいか
  • どのプロセスで人間のダブルチェックを必須にするか
  • どのような教育・認定を受けた人だけが利用できるツールなのか

これらをスキルマップと紐づけて定義することで、「リスクに応じた権限設計」が可能になります。

5-2. ガバナンスルールを「研修コンテンツ」に落とし込む

AIガバナンス文書は、多くの場合「読まれない」ことが最大の課題です。そこで、ルールをそのまま文書で配るだけでなく、教育プログラムの中に組み込む工夫が有効です。

  • 具体的なNG事例・グレーゾーン事例をケーススタディとして教材化
  • 小テストや演習を通じて理解度をチェック
  • 職種別の想定シナリオを用いてロールプレイ

このようにすることで、AIガバナンスが「現場の行動」に落ちていきます。

5-3. AI組織・新職種のKPIを設定する

AI組織を立ち上げ、新職種を定義しても、成果が見えなければ継続的な投資は難しくなります。そこで、AIガバナンスやスキルマップの取り組みにも、定量的・定性的なKPIを設定しましょう。

  • AIツールのアクティブユーザー数・利用時間
  • AI活用による業務時間削減・コスト削減効果
  • AIリテラシー研修の受講率・テスト合格率
  • AI関連インシデントの発生件数・重大度
  • 部門別のAI活用事例数・成功事例の質

これらのKPIを定期的にレビューし、新職種の役割・組織体制・スキルマップの内容をアップデートしていくことが重要です。


6. これからAI組織構築を進める企業への具体的アクションプラン

最後に、これからAI組織構築・AIガバナンス整備・スキルマップ策定を進める企業に向けて、最初の一歩となるアクションプランをまとめます。

ステップ1:現状のAI活用状況と課題を棚卸しする

  • 社内で既に利用されているAIツール・サービスを洗い出す
  • 各部門での利用実態(用途・目的・懸念点)をヒアリングする
  • インシデント・ヒヤリハットの有無を確認する

ステップ2:暫定的なAIガイドラインと責任者を決める

  • まずは最低限の禁止事項・許可事項を明文化する
  • AI統括責任者(CAIO候補)とAIガバナンス担当を暫定的に指名する
  • 小さくてもよいので、AIガバナンス委員会のような場をつくる

ステップ3:優先度の高い職種からスキルマップを作成する

  • インパクト・リスクの高い職種を2〜3部門選定する
  • 部門代表とワークショップ形式でスキル項目を洗い出す
  • レベル定義と教育プランをセットで設計する

ステップ4:パイロットプロジェクトでAI組織の役割を検証する

  • 1つの業務領域を選び、AIプロジェクトを実施する
  • AIプロダクトマネージャー・ガバナンス担当・現場リーダーを巻き込む
  • プロジェクトを通じて、新職種の役割・プロセス・スキルセットを検証する

ステップ5:全社展開に向けて組織・制度を整備する

  • パイロットで得た知見をもとに、AIガバナンス文書を改訂する
  • AI組織(専門部署・横断チームなど)の位置づけを明確化する
  • 評価制度・人材育成制度にAIスキルマップを組み込む

まとめ:AI時代の競争力は「技術」ではなく「組織設計」で決まる

AI技術そのものは、クラウドサービスやAPIを通じて誰でも利用できる時代になりました。差がつくのは、「どのモデルを使うか」よりも、「どのように組織としてAIを活用し、リスクをコントロールするか」です。

本記事で紹介したようなAI組織の新職種設計、AIガバナンスのフレームワーク、そして現場に落とし込むためのAIスキルマップ策定は、いずれも短期間で完了するプロジェクトではありません。しかし、小さく始めて継続的に改善していくことで、貴社のAI活用力は確実に高まっていきます。

まずは、自社にとっての「AI統括責任者」「AIガバナンス担当」「AIプロダクトマネージャー」といった新職種を仮置きし、優先度の高い1〜2部門からスキルマップづくりを始めてみてください。それが、AI時代における組織競争力を高める第一歩となるはずです。

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