マルチエージェント
2026.01.30

初めてのマルチエージェント開発:実装の手順と知っておくべき設計のコツ

初めてのマルチエージェント開発:実装の手順と知っておくべき設計のコツ

「LLM(大規模言語モデル)で業務を自動化したい」と考えたとき、最初は単体のチャットボットや1つのエージェントから始める方が多いでしょう。しかし、要件が少し複雑になると、1つのエージェントにすべてを詰め込む設計はすぐに限界が来ます。そこで注目されているのがマルチエージェントです。

マルチエージェントとは、役割の異なる複数のエージェントが協調し、調査・計画・実行・検証などを分担しながらタスクを進めるアーキテクチャのこと。本記事では、初めてマルチエージェント開発に取り組む方向けに、実装の手順設計で失敗しないコツを、WordPressに貼り付けやすい形で解説します。

マルチエージェントとは?単体エージェントとの違い

単体エージェントは、入力→推論→出力を1つのエージェントが担います。対してマルチエージェントは、複数のエージェントがそれぞれ専門役を持ち、会話や共有メモリ(状態)を介して協力します。

単体エージェントが得意なこと

  • FAQ対応、文章生成など、要件がシンプルで完結している
  • 外部ツールが少ない(検索・DB・メール送信などが不要)
  • 誤りの影響が小さく、迅速に試作したい

マルチエージェントが効く場面

  • 調査→要約→提案→検証のように工程が分かれる
  • 複数のツール連携(検索、社内DB、スプレッドシート、チケット発行など)が必要
  • 品質担保(レビューやファクトチェック)を入れたい
  • 役割ごとにプロンプトや権限を分けて安全に運用したい

ポイントは「賢い1人」を作るより「得意分野の違うチーム」を作るほうが、品質・拡張性・運用性の面で安定しやすいことです。

基本構成:よくあるエージェントの役割分担

初期設計では、次のような役割を用意すると整理しやすくなります。

  • オーケストレーター(司令塔):タスク分解、担当割り振り、最終出力の統合
  • リサーチャー:検索や資料収集、根拠の抽出
  • プランナー:手順設計、意思決定の補助、リスク想定
  • 実行担当(ツール実行):API呼び出し、DB参照、ファイル生成など
  • レビュアー/監査:誤り検出、方針逸脱の指摘、セキュリティ観点のチェック

最初から役割を増やしすぎると会話コストが上がるため、まずは「司令塔+実行+レビュー」の3人体制から始め、必要に応じて拡張するのがおすすめです。

実装の手順(最短で動くところまで)

ここからは、初めてのマルチエージェント開発で迷いやすいポイントを押さえながら、実装を前に進めるための手順を紹介します。特定のフレームワークに依存しない考え方なので、LangChain/AutoGen/CrewAI/自作実装などに応用できます。

1. 目的と成功条件(KPI)を明文化する

マルチエージェントは「できること」が多い分、目的が曖昧だと肥大化します。まずは次を短く定義しましょう。

  • 対象業務:何を自動化するのか
  • 入力:ユーザーが渡す情報、前提データ
  • 出力:最終成果物の形式(文章、表、JSON、チケットなど)
  • 成功条件:正確性、所要時間、コスト、レビュー通過率など

例:問い合わせメールの一次回答案を作る。出力は「件名・本文・注意事項」。NGは断定、個人情報の再掲。レビューで不確実な点は「確認事項」として列挙する、など。

2. タスクを工程に分解し、エージェントに割り当てる

工程分解のコツは「モデルが得意な推論」と「ツールが得意な処理」を分けることです。たとえば次のように分けます。

  • 推論:文章構成、要約、方針決定、質問生成
  • ツール:検索、DB参照、計算、ファイル操作、送信

そして、各工程に「担当」「入力」「出力」を決めます。ここが曖昧だと、エージェント同士の会話が散らかり、再現性が落ちます。

3. 共有状態(メモリ)と通信プロトコルを設計する

マルチエージェント開発で重要なのは、実はプロンプトより状態管理です。おすすめは、次のような共有オブジェクト(状態)を用意すること。

  • task:ユーザー要求、制約、期限
  • facts:根拠となる情報(出典URL、社内文書ID)
  • plan:実行計画、手順、未解決点
  • artifacts:生成物(文章案、表、JSONなど)
  • risks:懸念点、禁止事項、監査メモ

通信は「自由会話」よりも、定型フォーマット(JSONや見出し構造)で受け渡すほど安定します。特にツール実行担当に渡す指示は、パラメータが明確な形にしましょう。

4. ガードレール(安全設計)を最初に入れる

後から入れると大変なので、最初に最低限の安全策を組み込みます。

  • ツール実行権限を分離(閲覧のみ/更新可/送信可を分ける)
  • 個人情報・機密情報のマスキング
  • 「不確実なら保留して質問する」方針を明記
  • 監査ログ(誰が何を参照し、何を出力したか)

司令塔が強すぎると暴走しやすいため、実行担当には「許可されたツールのみ」「許可された操作のみ」を徹底させると安全です。

5. 最小構成でMVPを作る(3エージェント推奨)

最初からフル構成を目指さず、次の3つでMVPを作ると実装が進みやすくなります。

  • オーケストレーター:タスク分解と統合
  • ワーカー:ツール実行・生成作業
  • レビュアー:出力をチェックし、改善指示

この形なら、品質の底上げ(レビュー)と、実行の自動化(ワーカー)を両立できます。

6. 評価(Evals)を用意して改善ループを回す

マルチエージェントは「なんとなく良くなった気がする」で進めると迷子になります。おすすめは、よくある失敗例をテストケースにして、改善を定量化すること。

  • 誤った断定をしないか
  • 根拠(facts)に紐づいた出力になっているか
  • 禁止ツールを呼ばないか
  • 所要ターン数が増えすぎていないか

「品質」「コスト」「速度」の3軸で評価指標を置くと、チューニング方針が決めやすくなります。

設計のコツ:初学者がつまずきやすいポイントを回避

コツ1:役割は“専門性”より“責務”で分ける

「マーケ担当エージェント」「法務担当エージェント」のように職種で分けるのも有効ですが、初期は責務(何に責任を持つか)で分けたほうが安定します。たとえば「根拠を集める責任」「最終出力の整形責任」「安全監査責任」のように分けると、レビュー観点が明確になります。

コツ2:エージェント同士の会話を増やしすぎない

会話ターンが増えるほど、コストとブレが増えます。対策は次の通りです。

  • 司令塔が最初に「必要な成果物」「出力形式」「締切」を明示
  • 中間成果物は共有状態に格納し、会話は短く
  • レビューは「合格/不合格+修正指示(箇条書き)」に固定

コツ3:ツール実行は“宣言→実行→結果”の三段階にする

いきなり実行させると、誤操作や無駄な呼び出しが起きます。まず「何をするか」を宣言し、次に実行し、最後に結果を構造化して返す。これだけでデバッグが簡単になり、監査にも強くなります。

コツ4:レビュー役に“拒否権”を持たせる

レビュアーが単なる添削係だと、危ない出力が通ります。安全や品質の観点で、レビュアーが「差し戻し」できる設計にしましょう。特に次の観点はテンプレ化すると効果的です。

  • 根拠不足(factsがない断定)
  • 要件未達(出力形式が違う、必須項目が欠ける)
  • ポリシー違反(個人情報、差別表現、機密)

コツ5:プロンプトは長文化より“固定ルール+可変入力”

プロンプトに全部を書こうとすると、運用で破綻します。おすすめは、各エージェントに

  • 固定ルール(守るべき方針)
  • 入力(今回のタスク、facts、制約)
  • 出力形式(JSONや見出し構造)

の3点を与えること。可変部分を状態から注入すれば、変更が楽で再利用性も上がります。

よくある失敗と対策

失敗1:司令塔が何でもやってしまい、結局単体エージェントになる

対策:司令塔は「分解と統合」に専念させ、調査・実行は必ず他エージェントに委譲するルールを入れます。権限面でも、司令塔からツール実行権限を外すと分担が徹底できます。

失敗2:根拠が共有されず、出力がフワっとする

対策:factsを状態に必須化し、最終出力は「根拠に紐づく」ことをレビュアーの合格条件にします。可能なら引用元(URL、文書ID、日時)も保存しましょう。

失敗3:会話がループして終わらない

対策:最大ターン数、差し戻し回数の上限、打ち切り条件(不確実ならユーザー確認へ)を設けます。司令塔に「終了判定」の責務を持たせるのがポイントです。

導入時に揃えたい運用設計(実務で効く)

  • ログとトレーシング:各エージェントの入力/出力、ツール呼び出し、バージョン
  • プロンプトの版管理:Gitで管理し、変更理由を残す
  • データ境界:学習に使ってよいデータ、出力してよいデータの線引き
  • フォールバック:失敗時は人に引き継ぐ、もしくは安全な簡易回答にする

マルチエージェントは「作って終わり」ではなく、運用しながら賢くしていく仕組みです。改善可能な形で記録を残すほど、後々の伸びが大きくなります。

まとめ:まずは小さく作り、役割と状態を整える

初めてのマルチエージェント開発では、派手なデモよりも「役割」「状態」「レビュー」をきちんと設計することが成功への近道です。おすすめの進め方は、

  • 目的と成功条件を明文化
  • 工程を分解して担当を割り当て
  • 共有状態(facts/plan/artifacts)を整備
  • 最小3エージェントでMVP→評価→改善

という流れ。まずは小さな業務から始めて、うまくいった分だけ役割を増やしていきましょう。マルチエージェントは、チーム設計がハマると品質と拡張性が一気に上がります。

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